(事例紹介)殺人・死体遺棄事件で少年院送致

2022-08-31

(事例紹介)殺人・死体遺棄事件で少年院送致

~事例~

秦野市内の自宅で出産した女児を殺害したとして、神奈川県警捜査1課と秦野署は21日、殺人の疑いで、同市に住む10代の少女=死体遺棄容疑で逮捕=を再逮捕した。
県警によると、少女は調べに対し、「間違いありません」と容疑を認めているという。
再逮捕容疑は、5月15日、自室で女児を出産した後に殺害した、としている。
捜査関係者によると、少女は1人で出産後、女児を自室に放置して殺害したとみられる。
遺体は数日間、自室に置いたままだったという。
(後略)
(※2022年7月21日12:40YAHOO!JAPANニュース配信記事より引用)

~殺人事件と少年事件~

前回も取りあげた事例について、今回は殺人罪という犯罪と少年事件について注目していきます。
まず、前回の記事でも触れた通り、取り上げている事例では、10代の少女が殺人罪などの容疑に問われています。

刑法第199条(殺人罪)
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

刑法の条文にある通り、殺人罪の法定刑は、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」とされています。
10代の者が犯罪をした少年事件では、原則として、成人のように起訴されて刑事裁判となり、有罪判決を受けて刑罰を受けることはありません。
少年事件では、捜査を受けた後に事件が家庭裁判所に送られ、調査を経て審判を受け、保護処分(少年の更生のための処分)を受けるという流れが一般の流れとなります。

しかし、今回の事例で登場する殺人罪を含む一定の刑罰の重さがある犯罪については、その少年事件の流れの例外が存在します。
その例外が、いわゆる「逆送」です。

逆送とは、捜査機関などから家庭裁判所に送致された少年事件を、再度家庭裁判所から検察官に送致することを指します。
一般の少年事件は、先ほど触れた通り、捜査機関(検察官を含む)から家庭裁判所に送致されて審判に付されることが多いため、その逆に家庭裁判所から検察官へ送致されることから、逆送致=「逆送」と呼ばれます。

この逆送は、その少年事件の終局処分として、保護処分ではなく刑事処分(刑罰を受けさせること)が適切であると判断された場合に取られるものです。
逆送され検察官のもとへきた少年事件は、原則として起訴され、成人同様刑事裁判を受けることとなります。
そして、刑事裁判で有罪判決を受けるということになれば、成人とは仕組みが異なるものの、少年も刑罰を受けることとなります。

ここで、今回の事例で登場している殺人罪逆送の関係を見てみましょう。
少年法では、逆送をする場合について、以下のように定めています。

少年法第20条
第1項 家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
第2項 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るものについては、同項の決定をしなければならない。
ただし、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。

少年法第62条
第1項 家庭裁判所は、特定少年(18歳以上の少年をいう。以下同じ。)に係る事件については、第20条の規定にかかわらず、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
第2項 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、特定少年に係る次に掲げる事件については、同項の決定をしなければならない。
ただし、調査の結果、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。
第1号 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るもの
第2号 死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であつて、その罪を犯すとき特定少年に係るもの(前号に該当するものを除く。)

逆送についての基本的な定めは、少年法第20条に定められており、特に少年法第20条第2項は、「原則逆送」と呼ばれることもあります。
少年法第20条によると、「死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件」で調査を経て刑事処分が妥当と判断される場合には逆送をしなければならず(第1項)、それにかかわらず「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」で「その罪を犯すとき16歳以上の少年」である事件の場合は原則として逆送をする(第2項)と定められています。
少年法第20条第2項では、但し書きとして逆送をしなくてよい場合も定められています。

そして、その例外として、少年法第62条では、18歳以上の「特定少年」の逆送について定めています。
先ほど挙げた少年法第20条の定めに関わらず、特定少年は調査の結果刑事処分が適当とされた場合には逆送をしなければならず(第1項)、それにかかわらず特定少年の「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」で「その罪を犯すとき16歳以上の少年」に係る事件(第2項第1号)と、「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件」で「その罪を犯すとき特定少年」に係る事件(第2項第2号)は原則逆送をしなければならないと定められています。
こちらについても、少年法第20条第2項同様、但し書きで逆送をしない場合について定められています。

今回の事例では、逮捕された少女の容疑として殺人罪が含まれていますが、殺人罪は「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」です。
報道では、少女の年齢は10代であることしかわかりませんが、少女が16歳以上であれば、少年法第20条第2項により、原則逆送の措置がとられると考えられます。

しかし、ここでこの事例の終局処分について、以下のような報道がされています。

~事例~

秦野市で、出産した赤ちゃんを殺害し畑に遺棄したとして逮捕された10代の少女について、横浜家庭裁判所は少年院に送ることを決めました。
(後略)
(※2022年8月25日19:29NHK NEWS WEB配信記事より引用)

すなわち、今回の事例では、家庭裁判所の審判で、逆送して刑事処分(刑罰)を受けさせることよりも、少年院送致という保護処分を受けさせる方が適切であると判断されたということになります。
先述した「原則逆送」を定める条文でも、但し書きで逆送をしない場合についても定められている通り、原則として逆送をするというケースでも、事情によっては保護処分になる場合もあるということです。

少年院送致などの保護処分では、少年の更生のための活動が行われ、例えば少年院では、生活習慣の改善が図られたり、矯正教育が行われたり、その後の生活のための就労訓練や資格取得援助が行われたりします。
対して、逆送後起訴され、刑事裁判で有罪となった場合に少年刑務所へ行くとなった場合には、こちらはあくまで刑罰を受けるということになりますから、更生のための十分な活動は保護処分ほど手厚くはないと考えられます。

こうしたことから、逆送の対象となる少年事件で、今後の更生を考えて逆送を回避して保護処分を受けさせてほしいと考えられる方も多いでしょう。
逆送の対象となる事件は重大犯罪であることも多いうえ、少年事件の手続は成人の刑事事件とは異なる部分もあることから、当事者だけで対応をしていくことには限界もあると思われます。
だからこそ、まずは少年事件に対応している弁護士に相談してみることをおすすめします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、逆送の対象事件となる少年事件についてのご相談・ご依頼も受け付けています。
まずはお気軽に0120-631-881までご連絡ください。

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