少年の傷害事件で正当防衛を主張

2019-12-06

少年の傷害事件で正当防衛を主張

少年事件における傷害事件ついて正当防衛が成立するか,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。

~事例~

京都府福知山市に住む少年A(17歳)(と友人B)は,従前から些細なトラブルのあった少年Vから呼び出され,近くの公園に向かった。
当初は口論に終始していたが,突如としてVが殴りかかってきたことから,BがVを羽交い締めにした。
それでもVが抵抗をやめないため,AはBの身にも危険が及ぶと感じたことからVを数回殴打し,Vが怪我を負うに至った。
京都府福知山警察署の警察官は,Aを傷害罪の疑いで逮捕した。
Aの家族は,少年事件に強いと評判の弁護士に相談することにした(本件は事実を基にしたフィクションです。)。

~傷害事件と正当防衛~

本件では,AはVを数回殴打し怪我を負わせていることから,逮捕された罪である傷害罪(刑法204条)が成立するようにも思われます。
もっとも,本件ではVの方から,殴りかかってきたという事情があります。
したがって,A(およびB)に,刑36条1項が定める正当防衛(「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」)が成立する可能性があります。
正当防衛が成立すれば,Aの傷害行為には違法性が認められず,犯罪が成立しないことになります。
また,仮に正当防衛が成立せず犯罪が成立したとしても,防衛行為がやりすぎたものと認められる場合については,過剰防衛として刑の減免の可能性があります(36条2項参照)。

もっとも,その正当防衛(あるいは過剰防衛)が成立する前提として,「急迫不正の侵害」が認められる必要があります。
この点については,近年判例によって新たな解釈が示されています。
最高裁平成29年(2017年)4月26日決定は,「刑法36条は,急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに,侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものである」と,まず正当防衛の根拠・趣旨に言及しています。
これに続き「したがって,行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合,侵害の急迫性の要件については,侵害を予期していたことから,直ちにこれが失われると解すべきではなく」と,相手方の侵害を予期していたとしても直ちに正当防衛が否定されるわけではないことを改めて確認しています。
そして,「急迫不正の侵害」が認められるかどうかに関しては,「対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべき」とし,侵害の予期や,侵害の事前回避に関する事情を中心に様々な事情を総合的に考慮した上で決すべきものとしました。
この判例に照らしてみると本件では,たしかにAやBは従前からVとのトラブルを抱えており,Vから何らかの暴力等を振るわれることも予期していた(できた)といえます。
しかし,AやBは何の武器や凶器等も用意しておらず,この機会にVを痛めつけようなどという気まではなかったと考えられます。
また,従前もあくまで少年同士の些細なトラブルがあったにすぎず,少年に警察等を呼ぶなどの事前回避の義務があったというのは酷でしょう。
したがって,Aの反撃行為が相当(「やむを得ずにした行為」)と言えるならば正当防衛が,仮に相当といえない場合にも過剰防衛が成立することになると考えられます。
なお,正当防衛(および過剰防衛)の成立には,防衛の意思(「防衛するため」の行為であること)も必要と解されています。
これが否定されるケースというのは,たとえば先述のように正当防衛の名を借りて相手方を痛めつけようとした場合です。
少なくとも本件においては,防衛の意思は否定されないと思われます。

~正当防衛に関する弁護活動~

上記判例が示したように,現在の判例・実務では,正当防衛の判断に当たってはかなり細かな事情までも判断材料とし,その成否を決する傾向があります。
したがって,被疑者の正当防衛を主張する弁護士としては,現場の状況や目撃証言などから,上記「急迫不正の侵害」があったことなどを詳細な事実をもとにして主張する必要があるといえるでしょう。
少年事件では,まだ中学校や高校などの中等教育課程に在籍している者も多く,少年の将来のためにもその不利益は最小限に抑える必要性が極めて高いと考えられます。

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