偽札で児童買春

2019-06-04

偽札で児童買春

~ケース~

大学1年生のA君(18歳)は、自宅にあったおもちゃの1万円札である子供銀行券(縦55mm,横115mm)を実物大に拡大カラーコピーして偽札を作成した。
A君は後日,インターネットで知り合ったVさんと埼玉県川口市のホテルで性交をし,対価として封筒に上記コピー3枚を入れたものを手渡した。
Vさんは封筒の中身をちらっと確認し,その場では偽札であるとは気が付かなかった。
その後,Vさんが自宅に戻り封筒から取り出したところ偽札であることに気が付いた。
Vさんは埼玉県川口警察署に通報し,A君は事情を聞かれることとなった。
(実際にあった事件を基にしたフィクションです)

~A君に成立する罪~

A君は対価を支払って性交をするいわゆる買春(売春)という違法な行為をしています。
ただ、売春を禁止する売春防止法は、18歳以上の者を相手方とする売春に罰則を定めていません。
ですので、Vさんが18歳以上であれば、A君に刑罰は科されません。
一方,Vさんが18歳未満の場合には児童買春および埼玉県青少年健全育成条例違反(いわゆる淫行条例違反)となります。
ただし、淫行については、青少年が行ったもの(つまり青少年同士の淫行)であれば処罰されません。

A君の行為の内,一番問題となるのはおもちゃの1万円札を本物のお札のように拡大カラーコピーしたことです。
A君は偽札を作ったということですので、通貨偽造罪(刑法148条)が成立しそうです。
しかし,通貨偽造罪のいう「偽造」とは、一般人が本物であると誤信する程度の外観が必要です。
A君の作ったものはパッと見ただけでは一瞬本物かと思いますが,普通に見ればコピーだと分かる程度のものだったといえるでしょう。
そのため,通貨偽造罪のいう「偽造」には当たらず,A君は通貨偽造罪は成立しないと考えられます。
しかし,「通貨のようなもの」を作る行為も実は通貨及証券模造取締法という法律によって禁止されています。
この法律は通貨などに似ている外観を有する物の製造や販売した者に1ヵ月以上3年以下の懲役を科すと定められています。
模造とは、一見すると本物に見えますが,一般人が普通に見れば偽物とわかる程度の外観をもつものを作成することを言います。

おもちゃの子供銀行券や1万円札のパロディ商品は、裏がメモ帳として白紙になっている,四方に余白があるなど明らかに本物ではないと分かる場合が多いでしょう。
A君がコピーの基にした子供銀行券も、実際の紙幣のサイズよりも一回り小さくなっていますので一見して偽物であるとわかります。
そのため,上記のような商品などは偽造はもちろん,模造にすら当たらないと言えます。
一方で,A君は原寸大に拡大コピーしたわけですから,一見すると本物に見える程度のレベルの外観を作ってしまったことになるでしょう。
そのため,A君は通貨及証券模造取締法違反となる可能性が高いでしょう。

ちなみに、A君が偽札を用いてVさんと性交に及んだことで、性交という利益を詐取する詐欺罪詐欺利得罪。246条2項)が成立するように思えるかもしれません。
ですが、以下のとおり、こうしたケースにおいて詐欺罪は成立しないと考えられています。
お釣りなどで得た偽札偽札だと知りながら使用した場合、収得後知情行使等罪という罪が成立します。
この罪も他人を騙して支払いを免れる点では詐欺罪と同様ですが、法定刑の重さは詐欺罪よりも明らかに軽くなっています。
そこで、自身が偽造した通貨を用いるというケースについても、刑の均衡を保つべく詐欺罪の成立は認めないとされているのです。
ただし、その場合も偽造通貨行使等罪という罪が成立することはありえます。

~弁護活動~

A君は18歳ですので、少年(20歳未満の者)が罪を犯したとして少年事件に当たります。
少年事件の場合は、刑事事件の刑罰の代わりに,家庭裁判所が調査・審判を行い保護処分を下します。
ただし,重大な事件である場合は、家庭裁判所が検察官に事件を再び送致し、通常の刑事事件と同じ手続となる場合もあります(逆送)。
通貨偽造罪を疑われた場合には、重大な事件として検察官に事件が送致される可能性もありますが,通貨及証券模造取締法違反であれば逆送される可能性は低いでしょう。

A君に下される保護処分としては、保護観察処分または少年院送致が考えられます。
今回のケースでは、買春を行っていたこと,通貨偽造罪につながるおそれのある犯罪のため,少年院送致となる可能性もないとは言い切れません。
しかし,そもそも少年事件というのは、少年の性格、能力、生活態度、更生の可能性といった要素を成人よりも重視するものです。
そのため,弁護士の力を借りながらきちんと対応すれば、少年院を回避できる可能性は高くなるでしょう。

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