少年が受け子で逮捕・騙されたふり作戦

2020-11-20

昨今増加する特殊詐欺事件について,少年が受け子をして逮捕されてしまった事例を題材に、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。

~事例~

架け子であるXは、V(79歳)を電話で騙して金員を詐取しようとしたが、Vは途中で詐欺であることに気付いて警察に通報した。
Xは、Vがすでに警察の協力を仰いでいることに気付かないまま、少年A(18歳)に対し「良い小遣い稼ぎになる」と、受け子役を打診した。
少年Aが、金員の受け渡し場所にいくと、兵庫県垂水警察署の警察官が待ち構えており,そのまま少年Aは詐欺未遂の疑いで逮捕された。
Aの家族は,少年事件に強いと評判の弁護士に相談することにした(本件は事実をもとにしたフィクションです。)。

~少年と特殊詐欺~

いわゆる「オレオレ詐欺」「振り込め詐欺」などの特殊詐欺事件は、若年層を中心に蔓延しつつあるともいわれており、社会問題化して久しい状況といえます。
そんな昨今では、被害者や犯罪捜査にあたっている警察官等も、もはや手をこまねいているだけではありません。
通称「騙されたふり作戦」という特殊詐欺事件対策によって、加害者を出し抜き逮捕・検挙するという対策もさかんになされています。
これは、一旦騙されたものの、嘘に気付いた被害者が騙されたふりを続けた上で、金品等の受け渡し場所を指定し、そこで待ち構えていた被害者の振りをした警察官が受け子をその場で逮捕してしまうという作戦を指します。
本件事例も、典型的な「騙されたふり作戦」が実行された特殊詐欺事件といえます。

もっとも、騙されたふり作戦が実行された特殊詐欺事件は、刑法上問題点も少なくないと言われています 。
近年は、特殊詐欺事件に関する判例・裁判例も蓄積されてきており、本稿でも関連する限りにおいてこれらにも言及しつつ解説していきたいと思います。

刑法は60条において「2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」と共同正犯を処罰する旨を定めています。
これは、ドラマや映画、テレビ・ネットの事件報道などで「共犯者」とされる者の典型です。
現在の通説的な考え方では、共犯者の行為と正犯者や他の共犯者の犯罪行為との間に因果関係があるときには、共犯者も正犯(共同正犯)として処罰されるものとされています(因果的共犯論)。
つまり、他の共犯者の行為によって既に発生した結果(例えば傷害行為による怪我など)について、遡って因果を与えることはできないのです(最決平成24年11月6日参照、傷害罪における承継的共同正犯の否定)。

しかし本件では、XがVに対し嘘をつき「人を欺」く行為(欺罔行為)をした後に、少年Aは受け子として犯行に参加しています。
このような場合にも、少年AはXのした行為を含めて詐欺未遂罪(60条・250条・246条1項)の罪責を負うことになるのでしょうか。
この点に関して、結論を出したのが最決平成29年12月11日の判例です。
同決定は、受け子である共犯者が、「詐欺行為を完遂する上で欺罔行為と一体のものとして予定されていた受領行為に関与している」ことを根拠に、詐欺未遂罪共同正犯としての責任を認めました。
つまり、本件の少年Aのような受け子も、詐欺未遂罪の「正犯として」の刑事責任を負うことになってしまうのです。

~ 特殊詐欺の厳罰傾向~

上述した最決29年決定は、最決24年決定のように因果的共犯論のような理論的な根拠には一切言及することなく、騙されたふり作戦における受け子の共同正犯としての責任を認めています。
このように、裁判実務は、特殊詐欺の社会問題化を背景に、受け子のような末端の関与者も含めを極めて厳しい責任を問う傾向にあることは否定できません。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,少年による特殊詐欺事件を含む刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。
特殊詐欺事件は、厳罰化傾向にあるにも関わらず、少年が手を染めてしまいますい犯罪でもあります。
詐欺未遂事件で逮捕されてしまった少年のご家族は,24時間対応のフリーダイヤル(0120-631-881)にまずはご一報ください。

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