(事例紹介)強盗殺人未遂罪で高校生が逮捕された事例と「逆送」
(事例紹介)強盗殺人未遂罪で高校生が逮捕された事例と「逆送」
~事例~
女性を殴り現金を奪ったとして、吉川署は29日、強盗殺人未遂の疑いで埼玉県三郷市に住む高校生の少年(16)を逮捕した。
逮捕容疑は、29日午前0時44分ごろ、三郷市中央2丁目の国道298号交差点で、歩いて帰宅途中だった同市の女性(27)の頭などをキャスターボードで背後から複数回殴り、首を絞め、現金500円を女性の財布から奪った疑い。
「女性を殺そうと思って殴ったほか、首を絞めて金を奪ったことは間違いない」と容疑を認めているという。
同署によると、少年は「金を出せ」と女性を脅迫し、現金を強取。女性は頭部顔面打撲や鼻骨骨折など、全治不詳の重傷を負い救急搬送された。
(後略)
(※2022年9月30日9:05YAHOO!JAPANニュース配信記事より引用)
~強盗殺人罪・強盗殺人未遂罪~
今回取り上げた事例では、高校生の少年が強盗殺人未遂罪の容疑で逮捕されています。
逮捕容疑である強盗殺人未遂罪は刑法に定められている犯罪で、以下のように定められています。
刑法第236条第1項(強盗罪)
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
刑法第240条(強盗致死傷罪)
強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
刑法第243条(未遂罪)
第235条から第236条まで、第238条から第240条まで及び第241条第3項の罪の未遂は、罰する。
刑法第240条の強盗致傷罪・強盗致死罪は、強盗傷人罪や強盗殺人罪とも呼ばれます。
この呼び方の違いは、強盗の機会に用いられた暴行で結果的に人が傷ついたり亡くなったりしたものか、それとも人を傷つけたり殺したりしてでも強盗行為をして実際に人が傷ついたり亡くなったりしたものなのかということによります。
つまり、元々人が傷ついたり亡くなったりすることを織り込み済みで強盗罪を犯し、人の死傷という結果が起こった場合には、強盗傷人罪や強盗殺人罪が成立するということになります。
罪名の呼び方は違いますが、中身としてはどちらも刑法第240条のものとなりますから、強盗致死傷罪も強盗傷人罪・強盗殺人罪どれも「人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役」という刑罰の範囲で罰せられることとなります。
今回の事例では、報道された内容によると、逮捕された少年は被害者を殺そうとして殴るなどして金品を奪ったとされています。
先ほどの考え方からすると、元々殺意があって強盗に及んでいるということになりますから、強盗殺人罪に該当する行為といえ、被害者の女性が死亡するまでには至っていないことから強盗殺人未遂罪が成立すると考えられます。
~少年事件と強盗殺人罪・強盗傷人罪~
少年事件は、基本的には成人の刑事事件とは異なる手続きを踏み、少年は最終的に保護処分と呼ばれる少年の更生のための処分を受けることになりますが、例外的に「逆送」という措置が取られることがあります。
「逆送」は、家庭裁判所から検察官に事件が送致されることを指しており、「逆送」された少年事件は検察官の下で原則起訴されることになります。
そして、起訴された少年事件は成人同様刑事裁判となり、裁判では有罪・無罪が争われたり、有罪の場合の刑罰の重さが争われたりします。
ここで有罪となると、少年は少年刑務所に行って刑罰を受けることになります(犯罪によっては罰金刑で終わるケースもあります。)。
少年法では、様々な事情を考慮して「逆送」が適切であると判断したケースの他、原則として「逆送」を取ると定めているケースがあります。
原則として「逆送」すると定められているケースは以下のようなケースです。
・犯罪をしたときに16歳以上の少年の場合:故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であるとき(少年法第20条第1項)
・犯罪をしたときに18歳以上の少年(特定少年)の場合:上記に加えて死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であるとき(少年法第62条第2項)
強盗殺人罪で当てはめてみると、強盗殺人行為という故意の犯罪行為によって被害者を死亡させる犯罪であることから、16歳以上の少年がこの犯罪をしたときには原則「逆送」の措置が取られることとなります。
しかし、今回の事例では、逮捕された少年は16歳であるものの、容疑は強盗殺人未遂罪であり、被害者の女性は亡くなっていません。
「被害者を死亡させた」罪ではありませんから、今回の事例については原則逆送対象事件ではないということになります。
ただし、調査の結果、刑事処分が適切であると判断されれば「逆送」されることも考えられますから、「被害者が亡くなっていないから」といって一概に「逆送」されないというわけではないことも注意が必要です。
少年事件では、「逆送」などの特殊な手続もあり、なかなか先の見通しが付きづらい部分もあります。
特に強盗殺人罪・強盗殺人未遂罪などの重大犯罪の場合には、事件への対応自体が長期化し複雑になるおそれもあります。
だからこそ、専門家である弁護士のサポートを受けながら少年事件の手続に対応していくことで、ご本人だけでなくそのご家族の負担を軽減することが期待できます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、「逆送」の可能性のある少年事件から、重大犯罪にかかわる少年事件まで、幅広く少年事件を取り扱っています。
少年事件への対応でお悩みの際は、お気軽にご相談下さい。