少年事件・少年犯罪の基礎知識
1 少年事件・少年犯罪とは
少年事件・少年犯罪とは,少年が犯した事件のことをいい,刑事事件に関する手続きを定めた刑事訴訟法のほか,少年法が適用されることになります。 少年法は,20歳未満で刑罰法令に違反した・違反する可能性がある行為を行った子供を「非行少年」として,刑事司法において特別な取り扱いをするための手続きを定めた法律です。 いつを基準として20歳に満たない者か否かを判断するかというと,犯罪行為等を行った時点ではなく,少年審判で処遇が決定した時点を基準にします。 したがって,犯行時未成年であっても,処分時成人であった場合(19歳の時に事件を起こし,20歳を過ぎて警察に捕まってしまったような場合)は,少年時の事件であったとしても少年法の適用にはならず,成人事件として処分されることとなります。 少年事件は,「刑事事件」の一分野ではあるものの,少年法の適用により,成人の刑事事件とは異なる点が数多く存在します。
2 少年法の理念
少年法は,「少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正および環境の調整に関する保護処分を行うとともに,少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする」と規定しており(少年法第1条),非行という過ちを犯した少年に対しても,その可塑性を信じ,少しでも早く立ち直ってもらおうという保護主義の理念を定めています。
3 少年の類型
⑴ 犯罪少年
犯罪少年とは,14歳以上で,犯罪行為を行った少年のことをいいます。
⑵ 虞犯少年
虞犯少年とは,刑罰法令に触れる行為を行っていないものの,一定の虞犯事由があり,かつ,将来犯罪や刑罰法令に触れる行為をするおそれがある少年のことをいいます。
⑶ 触法少年
14歳未満で,刑罰法令に触れる行為を行った少年をいいます。
4 年齢による区別
⑴ 20歳未満
少年法上,少年とは,「20歳に満たない者」をいいます(少年法第2条1項)。 したがって,20歳未満であることが少年事件・少年犯罪として扱われる前提となります。 そして,いつを基準に罪を犯した者の年齢を判断するかというと,罪を犯した時点ではなく,少年審判で処遇が決定した時点を基準にします。
なお,18歳・19歳の少年については,特定少年とよばれ,それ以外の少年とは異なる規律がなされています。
⑵ 18歳未満
18歳以上20歳未満であれば,少年であっても,死刑が科される可能性があるのに対し,罪を犯した時に18歳未満であれば,死刑を科すことはできず,無期懲役にしなければなりません(少年法第51条1項)。 また,無期刑を選択すべき時には,有期刑を選択することもできます(少年法第51条2項)。
⑶ 16歳未満
少年事件・少年犯罪は少年保護事件として家庭裁判所で扱われるのが原則ですが,事件によっては審判の結果,少年事件であっても刑事処分を相当として検察官に送致され,検察官の起訴によって成人と同じ刑事裁判所で扱われる場合があります。 たとえば,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合には,行為時に16歳に達していた少年に関しては,刑事処分以外の措置を相当と認めるとき以外は,検察官送致の決定をしなければならないとされています(少年法第20条2項)。 これを,原則逆送事件といいます。 また,刑事処分がなされた場合の刑の執行の面では,16歳以上の者は刑務所で刑の執行を受けるのに対して,16歳未満の者については,16歳までの間は少年院で刑の執行ができます。
⑷ 14歳未満
14歳未満の者は刑事責任能力がないとして,刑事責任に問うことはできないため,14歳未満の者が刑罰法規に触れる行為をした場合には,児童福祉法上の措置が優先され,少年審判に付するのが適当と認められる少年だけが家庭裁判所に送致されます。 仮に家庭裁判所に送致されても,刑事処分を相当として検察官に送致することはできません。
5 少年事件・少年犯罪に関わる人々
⑴ 保護者
保護者とは,少年に対して法律上監護教育義務のある者および少年を現に監護する者をいい,具体的には,親権者,親権代行者,監護者,未成年後見人,児童福祉施設の長などです。 保護者には,少年のため付添人を選任することができる権利や,審判に出席することができる権利などの権利が認められる一方で,調査,審判のために出頭するなどの義務を負います。
⑵ 付添人
通常の刑事事件の場合,被告人をサポートする者として,弁護人がいるのに対し,少年事件の場合には,付添人が少年をサポートします。
⑶ 検察官
通常の事件の場合,被告人を起訴する者として検察官が必ず裁判に参加するのに対して,少年事件・少年犯罪の場合,検察官が参加する事件は限られています。
⑷ 裁判官
裁判官は,少年の処遇を最終的に決定します。
⑸ 調査官
調査官とは,裁判所からの調査命令を受けて,鑑別所での少年との面接,裁判所または家庭において家族との面接を行うとともに,本籍照会・学校照会・職業照会などを行う者をいいます。 このような社会調査は科学的・専門的であり,法律家だけで調査を行うことは困難なので,専門スタッフである調査官によって調査が行われます。 調査官は,このようにして聞き取った調査結果とともに,調査官の処遇意見をつけて書面で家庭裁判所に報告します。
⑹ 被害者等
少年法では,被害者,その法定代理人,被害者が死亡または心身に重大な故障がある場合にはその配偶者,直系親族,兄弟姉妹をまとめて被害者等と呼んでいます。 被害者の保護のため認められた制度としては,①記録の閲覧・謄写,②意見の聴取,③審判傍聴,④審判状況の説明,⑤審判結果等の通知が存在します。