少年による建造物侵入、建造物損壊事件の弁護活動
今回は、中学2年生の少年が自身の通う中学校に侵入し、壁に落書きをするなどした疑いで逮捕されてしまった場合の弁護活動につき、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
~ケース~[
中学2年生(14歳)のA君は深夜、共犯者である友人と自身の通う中学校へ侵入し、校舎の壁にスプレーで落書きをするなどしていたところを駆け付けた警備員と警察官に現認され、建造物侵入及び建造物損壊の疑いで逮捕されてしまいました。
A君の親はこれから事件がどのように進展するのかわからず、途方にくれています。(フィクションです)
~建造物侵入罪及び建造物損壊罪~
(建造物侵入罪)
正当な理由がないのに、人の看守する建造物に侵入すると、「建造物侵入罪」が成立します(刑法第130条前段)。
校舎に落書き目的で立ち入った場合はもちろん、その「囲繞地」(庭などのように塀で囲まれた場所をいいます)も「建造物」に含まれるので(最高裁昭和25年9月27日大法廷判決)、校舎には入らず、その周辺などに立ち入ったにすぎない場合であっても、建造物侵入罪が成立することがあります。
(建造物損壊罪)
他人の建造物を損壊すると、建造物損壊罪が成立します(刑法第260条前段)。
「建造物」とは、壁又は柱で支えられた屋根を持つ工作物であって、土地に定着し、少なくとも人がその内部に出入りできるものをいいます(大審院大正3年6月20日判決)。
既に完成し、学校教育の用に供されている中学校校舎は通常、「建造物」に該当するでしょう。
「損壊」とは、判例通説によると「その物の効用を害する行為」を指します。
裁判例によれば、公団内の公衆便所の外壁にペンキで「戦争反対」等と大書した場合(最高裁平成18年1月17日決定)、「損壊」に該当するとされています。
ケースのように、中学校校舎にスプレーで落書きをする行為は、その外観、美観を著しく汚損し、原状回復に相当の困難を生じさせたものとして「損壊」に該当すると判断される可能性が高いでしょう。
~今後、ケースの事件はどのように進展する?~
(原則としてA君は刑罰を受けない)
A君は少年のため、原則として刑罰を受けることはありません。
それは、少年法が「保護主義」を理念として掲げており、少年の健全育成のために必要な保護処分を行う手続が予定されているからです。
もっとも、捜査段階においては刑事訴訟法の適用があるため、逮捕・勾留され、身体拘束を受けうる点では成人と同様です。
(少年事件においては原則として必ず家庭裁判所が関与する)
成人の刑事手続では検察官の裁量による「起訴猶予処分」によって、被疑者を裁判にかけずに事件を終了させることができるのに対し、少年事件における検察官は自身の裁量によって、少年を家庭裁判所に送致しない、という処分ができません。
少年事件において検察官は、家庭裁判所への送致が義務付けられているのです(全件送致主義)。
これは、少年の健全な育成のため、検察官の判断ではなく、家庭裁判所の判断に委ねるのが妥当とされているからです。
一方で、犯罪の嫌疑がない、あるいは犯罪事実についての嫌疑が不十分である場合には、送致されません。
もっとも、虞犯少年といえる場合など、家庭裁判所の審判に付すべき事由がある場合は、送致されます。
(家庭裁判所へ送致された後)
家庭裁判所へ送致された後は、少年の資質や性格、家庭環境の調査が行われます。
少年を少年鑑別所に収容して行う場合(観護措置)と、在宅で調査を行う場合があります。
(審判開始決定がなされたら)
A君の必要に応じ、保護処分が言い渡されます。
保護処分には①保護観察処分、②少年院送致、③児童自立支援施設又は児童養護施設送致があります。
保護処分が必要なければ、「不処分」という決定がなされる場合もあります。
また、終局処分を留保し、相当の期間、家庭裁判所調査官の観察に付する「試験観察」が言い渡されることもあります。
ケースの場合、A君には「不処分決定」か「保護観察処分」が言い渡される可能性が高いのではないでしょうか。
当然、不処分決定を獲得する方がA君にとって有利ですが、A君の保護・教育的な必要性が高いと認められると、より負担の重い処分がなされることも考えられます。
A君にとって最も有利な事件解決を目指すためには、少年事件に熟練した弁護士のアドバイスを受けながら、家庭環境、監護態勢、交友関係などの見直しを行い、これを家庭裁判所へアピールするのが良いでしょう。
お子様が逮捕されてしまった場合には、まず少年事件の経験が豊富な弁護士を探し出し、早期に相談することをおすすめします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
中学生のお子様が建造物侵入、建造物損壊事件を起こして逮捕されてしまい、お困りの方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。