傷害罪の少年事件(共犯)で観護措置が不安
傷害罪の少年事件(共犯)で観護措置が不安
傷害罪の少年事件(共犯)で観護措置が不安な場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【刑事事件例】
東京都千代田区に住むAさん(高校1年生)は、友人であるBさん、Cさんとともに、Vさん(中学3年生)の顔や体を殴ったり蹴ったりしました。
Vさんは病院に運ばれ、急性硬膜下血腫などの重傷を負いました。
Aさんらは、Aさんを中心に結成したバイク愛好会のメンバーでしたが、Vさんが同グループを抜けたいと言い出したことをきっかけに、傷害事件が起こってしまったという経緯のようです。
Aさんら3名は、警視庁万世橋警察署の警察官により傷害罪の容疑で逮捕されました。
Aさんの両親は、今後Aさんが観護措置を取られる可能性があると警察官に聞き、不安に思っています。
(2021年1月12日に朝日新聞に掲載された記事を参考に作成したフィクションです。)
【傷害罪とは】
刑法204条
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
傷害罪の「傷害」とは、人の生理機能に障害を与えることをいいます。
刑事事件例のVさんの急性硬膜下血腫などの重傷は、生理機能障害として、傷害罪の「傷害」に該当します。
ところで、刑事事件例では、Aさん、Bさん、Cさんがそれぞれ殴る・蹴る等の暴行を加えています。
この場合、Aさんはいわゆる「共犯」となるのでしょうか。
【共犯(共同正犯)とは】
刑法60条
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
刑法60条の「正犯」とは、自ら犯罪を行った者を指します。
すなわち、刑法60条は、「二人以上共同して犯罪を実行した」場合、共犯者(共同正犯者)全員を自ら犯罪を行った者(「正犯」)と扱うということを定めています。
刑法60条が共犯者(共同正犯者)全員を自ら犯罪を行った者(「正犯」)と扱う理由は、共犯者(共同正犯者)全員がお互いに補完・利用しあって自分の犯罪を実現しようとするとの合意(意思の連絡)をし、その合意(意思の連絡)に基づいて犯罪行為が行われている場合、結局、共犯者全員が共同犯行の合意(意思の連絡)という事実と犯罪行為の実行担当者を介して、犯罪を自ら実行したと評価することができるからだと考えられています。
このような共犯者(共同正犯者)全員を自ら犯罪を行った者(「正犯」)と扱う理由から、共犯(共同正犯)の成立要件は、①共同して犯罪行為を行う合意(意思の連絡)と②その合意(意思の連絡)に基づいて共犯者の誰か(共犯者全員でもそのうちの一人でもよい)が犯罪行為を行ったことの2つが求められると考えられています。
刑事事件例では、AさんはBさん、Cさんとともに、Vさんの顔や体を殴ったり蹴ったりしました。
このとき、Aさんら3名は①共同して犯罪行為(傷害行為)を行う合意(意思の連絡)をし、②その合意に基づいて全員で犯罪行為(傷害行為)を行っていると考えられます。
よって、Aさんは傷害罪の共犯(共同正犯)として、自ら傷害罪を犯した者(「正犯」)と扱われることになるでしょう。
【共犯(共同正犯)と刑事責任】
共犯(共同正犯)の事件においては、共犯者全員が自ら犯罪を犯した者(「正犯」)と扱われます。
その結果、共犯者(共同正犯者)は、各自の行為により生じた結果についてだけでなく、他の共犯者(共同正犯者)の行為により生じた結果についてもまた、自らが生じさせた場合と同じく扱われ、共犯者(共同正犯者)各自が結果全体について刑事責任を問われることになります。
刑事事件でいえば、Aさん、Bさん、Cさんはそれぞれ自ら傷害罪を犯した者と扱われます。
例えば、Vさんの怪我(傷害)がAさん、Bさん、Cさんのうち誰の暴行(殴る蹴る等の行為)により発生したのかが不明な場合である場合、一見するとAさん、Bさん、Cさんにはそれぞれ暴行罪が成立するのみではないかと思われます。
しかし、Aさん、Bさん、Cさんのいずれかの暴行行為によりVさんの怪我(傷害)が生じたのであれば、Aさん、Bさん、Cさんにはそれぞれ傷害罪が成立することになるのです。
なお、刑法では傷害罪について、以下のような規定もあります。
刑法207条
二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。
この刑法207条は、同時傷害の特例と呼ばれることもあり、「共同して実行した」場合以外でも傷害罪に問われうるということに注意が必要です。
【少年事件と観護措置】
さて、今回の事例では、傷害事件を起こしたAさんは高校1年生の未成年者ですから、Aさんは少年事件の手続に沿って処分が決められていくことになります。
少年事件では、捜査機関(警察・検察)は、事件の捜査を遂げた後は、全ての事件を家庭裁判所に送致しなければならないとされています(少年法41、42条)。
そして、事件の送致を受けた家庭裁判所は、「審判を行うために必要があるとき」(少年法17条)は、少年の身体を少年鑑別所に送致する観護措置をとることができると規定されています(少年法17条1項2号)。
観護措置は、実務において通常は4週間(少年法17条3項、4項)という期間で運用されていることが多いです。
この期間、少年は家庭裁判所調査官により心理調査や行動観察を受け、規則正しい生活を送るための運動や読書、学習などをします。
観護措置はこのような教育的な面があるものの、少年の身体拘束を伴うことから、学校を欠席せざるをえなかったり、家庭内で過ごすことができなかったりというデメリットがあることも事実です。
そうしたこともあり、刑事弁護士(少年付添人)に観護措置を避けるための活動を行ってほしいと相談される方も少なくありません。
弁護士の活動としては、観護措置の要件や必要性がなく、また、観護措置を避けるべき事情があると主張して、観護措置の回避を目指す活動が考えられます。
また、一度観護措置が決定されてしまった場合は、観護措置決定を争うための刑事弁護(少年付添)活動として、異議申立て(少年法17条の2)をすることもできます。
先述のとおり、事例のAさんは高校1年生であり、Aさんの傷害事件は少年事件に分類されます。
とすると、傷害罪の容疑で逮捕されたAさんは、逮捕に引き続く身体拘束である勾留を経て、家庭裁判所に送致されることになります。
このとき、Aさんに観護措置決定がなされる可能性がありますから、場合によっては刑事弁護士(少年付添人)が観護措置を避けるための活動や観護措置決定を争う活動をすることも考えられます。
その際、観護措置をとらなくてもAさんの監督が十分にできることや、観護措置を取られることで発生する不利益を主張していくことになるでしょう。
傷害罪の少年事件(共犯)で逮捕された場合で、その後の観護措置を回避したい場合は、刑事事件(少年事件)に強い刑事弁護士(少年付添人)を選任することが重要です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を中心に取り扱う法律事務所です。
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