少年と器物損壊罪

2021-08-12

少年と器物損壊罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

高校3年生のA君(17歳)は、受験勉強のストレスを発散するため、マンションの駐輪場に停めてあった自転車に自己の精液をかけました。ところが、A君は、ある日突然、警察官から警察署に出頭するよう要請されました。駐輪場に設置されていた防犯ビデオの映像などからA君の犯行であることが判明したようです。A君やA君の両親は今後のことが不安になって弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)

~少年と器物損壊罪~

器物損壊罪は、刑法261条に規定されています。

刑法261条
 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。

「前三条に規定するもの」とは、公用文書等(刑法258条)、私用文書等(刑法259条)、建造物等(刑法260条)を指します。よって、器物損壊罪の対象(客体=「他人の物」)とは、これら以外の有体物ということになります。ちなみに、動物も「物」に含まれます。
ここでの「損壊」とは動物以外への毀棄、「傷害」とは動物に対する毀棄をいいます。毀棄とは、物理的な毀損・破壊行為のみならず、ひろく物の本来の効用を失わせる行為を含むと解されています。
この点、他人の自転車に精液をかける行為も損壊にあたることから、A君は器物損壊の疑いで警察官から出頭要請を受けています。
器物損壊罪の罰則は3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料となっていますが、A君は20歳未満の少年ですから、原則としてこれらの刑罰を受けることはありません。

ただ、少年法によれば、家庭裁判所は、少年審判を開始した事件につき、一定の場合を除き、保護処分を行わなければならない、としています(少年法第24条)。

保護処分には、
・保護観察処分
・少年院送致
・児童自立支援施設又は児童養護施設送致
の3種類があります。

一方、保護処分が行われない場合として、
・調査の結果、児童福祉法の規定による措置を相当と認めるとき(少年法第23条1項・18条1項)
・死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるとき(少年法第23条1項・20条1項)
・審判の結果、保護処分に付することができず、又は保護処分に付する必要がないと認めるとき(少年法第23条2項)
・審判の結果、本人が二十歳以上であることが判明した場合(少年法第23条3項)
があります。

少年審判とは、家庭裁判所において、少年が本当に非行(罪)を犯したかどうかを確認した上、非行の内容や少年個々人が抱える問題点に応じて、適切な処分を決めるための手続きです。

少年審判は必ず開かれるわけではありません。
家庭裁判所は、調査の結果、①審判に付することができず、又は②審判に付するのが相当でないと認めるときは、少年審判を開始しない決定を出すことができます(少年法19条1項)。
これが「審判不開始」決定です。

①審判に付することができないときとは、非行事実の存在の蓋然性がない場合などが挙げられます。
②審判に付するのが相当でないと認めるときとは、事案が軽微であったり、少年が十分に反省しており、更生のための環境も整っているなど要保護性が低い場合などが挙げられます。

審判不開始決定が出されるのは、多くは②の場合です。
ですから、少年審判を回避したければ、裁判所に対し、少年の反省具合、更生のための環境が整っていることなどをしっかりアピールしなければなりません。
また、それと併行して、被害者に被害弁償、示談等を行っていくことも大切です。

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