少年事件・少年犯罪の特殊性(成人事件との違い)

1 目的の違い

成人の刑事事件は,罪を犯した人に刑罰を科す手続きであり,刑罰を科す目的は,応報的側面と一般予防(一般人による犯罪を防止)・特別予防(犯罪者本人による再犯の防止)的側面があると考えられています。 これに対し,少年事件・少年犯罪は,非行という過ちを犯した少年に対し保護処分を行うという手続きであり,その目的は少年の健全育成にあると考えられています。     このような理念は,保護主義といわれ,少年事件・少年犯罪の手続きを規律する少年法も,その目的を「少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正および環境の調整に関する保護処分を行うことを目的とする」と規定し(少年法第1条),少年法の理念が保護主義にあることを明らかにしています。  

2 手続きの違い

⑴ 捜査段階

ア 身体拘束についての特則

成人の刑事事件における捜査段階の身柄拘束としては,逮捕・勾留という手続きが考えられるところ,少年事件・少年犯罪においては勾留につき特別な規定が存在します。少年事件・少年犯罪では,成人の刑事事件と異なり,①勾留状を発するには,「やむを得ない場合」でなければならず(少年法第48条1項,43条3項),②勾留場所を少年鑑別所とすることができます(少年法第48条2項)。また,③勾留に代わる観護措置という手続きをとることができます(少年法第43条1項)。 もっとも,実務上,「やむを得ない場合」は非常に緩やかに解釈されており,成人とほぼ同様の基準で少年の勾留が認められています。また,勾留に代わる観護措置がとられることもあまりありません。   

イ 全件送致主義

少年事件・少年犯罪については,成人の刑事事件と異なり,捜査機関が捜査を遂げた結果,犯罪の嫌疑があると判断したときは,すべての事件を家庭裁判所に送致することとされており(少年法第41条,42条),このことを全件送致主義といいます。成人の刑事事件では,事件が軽微なものである場合,刑事手続きを警察段階で終了させる手続き(微罪処分)や,検察段階で終了させる手続き(起訴猶予処分)が存在します。 これに対し,少年事件・少年犯罪の場合には,犯罪の嫌疑があると判断される限り,事件が軽微なものであっても,手続きが警察・検察段階で終了することはなく,すべて家庭裁判所に送致されます。 これは,少年の場合,少年の非行事実だけではなく,要保護性についても判断しなければならないところ,すべての犯罪について非行事実と要保護性を判断することのできる家庭裁判所に送致する必要性があるからです。 要保護性とは,再非行の危険性,すなわち当該少年の資質や環境等に照らして,将来において再非行の可能性があることです。  

⑵ 家庭裁判所送致後

ア 観護措置

家裁送致後も少年の身体拘束が必要な場合は,少年鑑別所での観護措置という手続きが行われます。 期間は通常4週間(少年法第17条3項,4項本文)として運用されており,最長で8週間(少年法第17条4項ただし書き,9項)とされています。 

イ 調査

家庭裁判所では,審判に付すべき少年について事件の調査が行われますが,この調査には法的調査と社会調査があります。 法的調査とは審判条件や非行事実の存否に関する調査をいい,社会調査とは少年に対してどのような処遇が最も有効適切であるかを明らかにするための調査をいいます。 このうち社会調査は,裁判官の調査命令を受けた調査官によって行われます。  

ウ 審判

(ⅰ)審判の非公開

少年保護事件では,成人のように公開法廷での公判が開かれることはなく,非公開の審判という手続きで審理が行われます(少年法第22条2項)。

(ⅱ)職権主義的審問構造

少年審判では,成人の刑事事件とは異なり,裁判官は,家裁送致の際に捜査機関から送付される記録や,調査官の調査等を検討し,一定の心証を形成した上で審判に挑みます。 したがって,審判の際に初めて弁護士が付添人として活動したのでは効果的な活動をすることができません。 そこで,できるだけ早い段階で弁護士に依頼することが重要となります。

エ 保護処分

成人の刑事事件では,犯罪事実が認定されれば,それに対する制裁として,刑罰を科すことが基本となります。 これに対して,少年事件・少年犯罪では,家庭裁判所の審判を経て,非行事実と要保護性が認定されれば,刑罰ではなく,保護処分を課すことが優先されます(保護処分優先主義)。  保護処分には, ①保護観察, ②児童自立支援施設又は児童養護施設送致, ③少年院送致 の3種類があります(少年法第24条)。  ただし,18歳・19歳の特定少年の場合は,原則逆送となる範囲が拡大しています。

オ 試験観察

少年審判では,保護処分に付するかどうかの最終決定をする前に,中間処分として,相当期間,少年を調査官の観察に付するという試験観察の制度が存在します(少年法第25条1項)。 試験観察の趣旨としては,少年にとって適正な処分が何かを慎重に見極めるべく,十分な調査を尽くさせるという側面と,終局処分をいったん留保することで,観察期間中の少年に心理的な影響を与え,更生を促すという側面があると言われています。

 

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